「子どもは自然にできると思ってた」魔裟斗と矢沢心が向き合った4年間の不妊治療と今
夫婦のカタチ
今では3人のお子さんがいる元格闘家の魔裟斗さん、女優・タレントの矢沢心さんご夫婦。前回のインタビューでは、お子さんたちへの愛情の伝え方について伺いました。
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「平等はむずかしいけど…」魔裟斗と矢沢心が語る3姉弟への愛情の伝え方
今回は、4年間向き合った不妊治療について。結婚当時、現役バリバリで「子どもは自然にいつかできるでしょ」と思っていた魔裟斗さんが不妊治療に本腰を入れるまで、矢沢さんは当時どんな気持ちで横にいたのか語っていただきました。
「子どもは自然にできると思ってた」
ライター菊池
第1子を授かるまで4年間、不妊治療に向き合っていたと思うんですが、当時のことを教えてください。
魔裟斗さん
最初、僕は「子どもはそのうちできるでしょ」っていうくらいのスタンスでした。もちろん、心が取り組んでいることはわかっていました。でも、まだ現役だったこともあって、本当に仕事のことしか考えられてなかったんです。
魔裟斗さん
そんな中、やっと子どもができたっていうタイミングがあったんです。が、流産してしまって。悲しむ心の姿を見たこと、自分もショックだったことがきっかけになって、病院の送り迎えも率先して協力するようになりました。
ライター菊池
矢沢さんは、不妊治療に本腰を入れる前の魔裟斗さんをどんな風に思ってました?
矢沢さん
当時、主人に不妊治療の具体的なことは言ってなかったんです。現役時代で大変なことも、主人の性格もわかっていたので、詳細を知りすぎないほうがいい気がして。
不妊治療をはじめたいという気持ちを伝えたときに、私のやっていることを認めて理解してくれたので、それで十分。私はがんばれるって思えました。
ライター菊池
ケンカしたり、不満に思うことはなかったんですか?
矢沢さん
ケンカになる以前に伝えていないし、不満もなかったですね。当時、そう思えたのも、主人がきちんと考えを言ってくれたのも大きいです。
私は、治療がうまくいかなかったときに、寄り添って欲しいわけでも「じゃあどうすればよかった?」とか「もっとがんばれ」とか「もう諦めよう」と声をかけて欲しいわけでもなかったんです。自分の中だけで解決したほうが、自分のストレスがないって思っていたので、言わなかった。
ライター菊池
そうだったんですね。
矢沢さん
でも、いろんなタイプの人がいるから、そこで寄り添って欲しい人もいるし、掛け声をかけてあげたほうがいい人もいると思います。
魔裟斗さん
仕事をバリバリやっている状況で、毎回、病院に一緒に行ったりとかは難しい部分があると思うんですよ。あと、治療へのお金を出してることが「協力」だと勘違いしている男の人が多いかもしれない。奥さんは、そこじゃないとこを求めてるんだと思うんですけどね。
矢沢さん
私が一番大事だなと思うのは、パートナーの性格を良く知ること。不妊治療はいろいろなやり方があるように、協力といってもいろんなやり方があると思うんです。だからこそ、相手を良く知って、相手と笑って生活して、コミュニケーションをとることが大切だと思いますね。
魔裟斗さん
うんうん。あと、仕事が忙しい男の人に言えるのは、全速力で仕事へのアクセル踏んでる時期って、ずっと続くものでもないということですね。その時期が終わったときに、子どもがいると新しい楽しみがあることを言いたいです。
矢沢さん
人生変わったって言ってるもんね。
魔裟斗さん
ホント、人生変わるんで。でも、今走ってる人にそれを言っても響かないと思うんですけど(笑)。
改まった手紙で気持ちを伝える
ライター菊池
そんな忙しい旦那さんに協力を仰ぎたい場合、どんな風にアプローチしたら良いと思いますか?
魔裟斗さん
手紙とかいいんじゃないかな。面と向かって言うと、ケンカになりがちなんで。「本気なんだな」ってことを理解させることが大事だと思うんですよね、やっぱり。
矢沢さん
手紙はいいね。改まった感じにもなるし。私はテーブルに不妊治療にまつわる本とか、当時書いていた日記、薬とかを置いておいて見えるようにしていたんですよ。
魔裟斗さん
それ見てなかった…。
矢沢さん
そう。結局、それを見るか見ないかはその人次第。タイミングによるところが大きいんですよね。
魔裟斗さん
僕の場合は、流産という事実に直面したことが大きかった。それくらいのことがないと、気づけなかったのかもしれない。
矢沢さん
男の人に伝えるのって本当に難しい。男の人も傷ついて初めてわかる人もいるとは思うんですけど、できるならそうなる前に伝わればいいなと。
魔裟斗さん
そう思うと、本当にタイミングだね。
どんなコミュニケーションもタイミングが全て
矢沢さん
忙しい人にとって不妊治療の話自体がストレスになっちゃうと思うんです。そういう人を振り向かせようとがんばる自分にもストレスを感じちゃう。
でも、そういうストレスは相手には伝わらないじゃないですか。自分はがんばっている、一ヶ月に1回しかないタイミングをどうすればいいか、でも相手はイライラしてるし…と。
ライター菊池
難しいですよね…
矢沢さん
そんな風にストレスをためるくらいなら、一ヶ月に一回のチャンスを逃したとしても、それはそういうタイミングだったんだなと思ったほうがいいなって。
ライター菊池
チャンスを逃すことが、焦りに繋がるという話もよく聞きますね…
矢沢さん
一ヶ月に一回の卵子の質を高めていければいいじゃないって思うようにしていました。
私も、何かしらを自分のコンディションを良い方向に、ポジティブに考えたり。腹痛はなかったとか、基礎体温は安定しているとか。でも絶対、毎月毎月、自分の体をステップアップさせようとは思っていました。
ライター菊池
ステップアップのために、どんなことに取り組んでいたんですか?
矢沢さん
漢方や食事の勉強をしました。あと、あとやっぱりストレスが一番良くないことがわかったので、ストレスに繋がりそうなことはゼロにしました。
ダメだった結果は振り返らないと気づいたときに、治療について書いていた日記もやめましたし、赤ちゃんができたあとについて書かれた本も全部捨てました。生まれた時に揃えればいいことなんだなって思って。
ライター菊池
なるほど。
魔裟斗さん
男の人の気持ちが変わっていくきっかけに、ファミリー層がいるところに一緒に行って、子どもたちと楽しそうに過ごしている家族を見せるっていうのもいいかもしれないですね。
魔裟斗さん
まさに最近そういう人がいたんです。2、3日前に子どもが生まれたばかりのお友達なんですけどね。子どもが欲しいけど授からなくて。去年くらいから旦那さんも本腰を入れ始めて。
矢沢さん
奥さんはやっぱりがんばっていたけど、旦那さんは本腰じゃなくてもどかしい時期もあったみたいなんですけどね。
魔裟斗さん
それまでは、仲の良い男3人だけで会うことが多かったのが、ファミリーの付き合いになったときに、そこで自分も子どもがいてもいいかなっていう気持ちが芽生えたみたいで。ちょっと変わったなっていう空気を感じたんですよ。
ライター菊池
それは大きな一歩を踏み出す会でしたね!
魔裟斗さん
そう!ファミリーばかりの会にいたっていうのは、彼らにとって大きな転機になったんだろうな。
ライター菊池
魔裟斗さんも昔は、集まりに子どもがくるの嫌だという話がありましたよね。
魔裟斗さん
まあ、若かったですからね、昔は。
20代は夢に向かって走ってるわけじゃないですか。30代、40代になって、自分がこんくらいだなっていうのが完全に見えてきたとき、子どもに何か託したくなるんですよね。
ライター菊池
本当に、タイミングって大事ですね。
矢沢さん
あと、見極めも大事だと思うんです。私は子どもがいて楽しいって思うし、世界も変わったなとも思うんですけど、夫婦だけでも楽しい時間って過ごせると思うんです。
子どもがいることだけがゴールではないので、治療を続けるのかやめるのかのタイミング、きっかけを作るのも自分次第だなって思うんですよ。
ライター菊池
矢沢さんは諦めようかな…とか弱気になったことはなかったんですか?
矢沢さん
流産したときに、やっぱりダメなのかなって思ったことありました。でも、多少なりとも、一歩一歩前に進んでいることに誇りを持って進んでいたので、全く弱気にならなかったし、諦めようとも思わなかったです。
無敵選手も出産では“ダメダメセコンド”に?
ライター菊池
そして、お子さんを授かったわけですが、魔裟斗さんは出産に立ち会ったんですよね。
矢沢さん
私たちは朝8時に病院に着き、主人は一旦仕事に向かい、終わってきてくれた夕方頃には陣痛が痛すぎてベッドに寝ていられないくらいだったんです。
魔裟斗さん
セコンドみたいな気持ちだったけど、今思うといらないサポートとかもしちゃったな(笑)。ジュースとかね。
矢沢さん
そう(笑)。食べないと力がでないからって、オレンジジュースとおにぎりを買ってきてくれたんです。でも飲みたかったのはお水。
それを言ったら、「エネルギーになるものを摂ったほうがいいよ」って言うのでオレンジジュースを飲んだら思いきっり戻しちゃって。起き上がるのも辛い中、お手洗いまで行った…ってこともありました。
ライター菊池
おお…それは大変。出産セコンドはどうでした?
矢沢さん
ベッドの上に乗って、励ましてくれるんですが、「痛いからやめてくれー」って(笑)。
魔裟斗さん
確かに、放っておいて欲しかったかなって思います(笑)。
矢沢さん
でも主人がセコンドをしてくれていなかったら、いつまでもベッドに乗ることが出来ず、出産までもっと時間がかかっていたかもしれないので、やっぱりセコンドを務めてくれた主人 に感謝しています。
夫婦で意識している「緊張感」
ライター菊池
子どもが生まれて夫婦の関係が変わった、というようなことがありますか?
魔裟斗さん
変わってないですね。子どもにとってはお母さんですけど、女性でいてくれてるっていうのがすごく大事かな。お母さんだけど、きれいなママでいるっていう意識を忘れて欲しくないなと。
矢沢さん
それは結婚前も、今も普通に言われるんですよ。「後ろ姿たるんでるよ」とか。だから昔から、ごはんを作っているときに、彼が待っている間が一番怖いんです(笑)。どこを見られて、アドバイスが飛んでくるかって。
ライター菊池
緊張感がありますね。
矢沢さん
そうなんですよ!
魔裟斗さん
もちろん僕も体鍛えておじさんぽくならないように、っていうか、おじさんだけどかっこいいおじさんでいられるように。まあ、僕は鍛えるのが趣味みたいなもんなんですけどね(笑)。
正解は一つではないという懐深さと共に、夫婦関係、親子関係、すべての人間関係の根本に、相手を知ることの大事さを強く感じさせてくれる学びの多い今回のインタビューでした。
そんなおふたりと一緒に育っていく、しっかり者の長女、泣き虫の次女、“破壊王”長男がどう成長していくか今まで以上に楽しみです。今後も、魔裟斗さんと矢沢心さんのブログから目が離せません!
〈取材・文=菊池有希子/編集=編集部/撮影=長谷英史〉