「この世に生まれなかった子かもしれない」美川憲一が“しぶとく生きる”に込めた想い
THE 美川憲一
19歳でデビューして、芸歴56年になる歌手の美川憲一さんが、Amebaブログに登場したのは今年の9月。ブログをはじめてから「街を歩いていると若い人に声をかけられることが増えた」といい、「読むと元気になれる」「声が脳内再生される」とSNSでも大きな話題となりました。
大ヒット曲『さそり座の女』や芸能界のご意見番としてのイメージも強い美川さんですが、ブログには大戸屋のお弁当をはじめて食べ、おいしくて翌日も食べてしまったというエピソードや大好きなパフェ購入するも自宅に帰るまで待ちきれず、車の中で食べてしまう姿など、チャーミングな一面も。
そんな美川さんに、ブログのタイトルにもなっている「しぶとく生きる」のルーツを伺いました。
「しぶとく生きる」に込められた想い
編集部
「しぶとく生きる」という言葉はどのようにして生まれたのでしょうか?
美川さん
子どもの頃から、うちの母に「あんたはしぶとい子だから絶対大丈夫よ」って、言われてきたんです。私の中では、美川憲一になる前、本名・百瀬由一(ももせ よしかず)が、子どものころから“しぶとさ”を母に植え付けられていたのよ。
編集部
お母様の言葉がもとになっていたんですね!ブログの中にも「2人の母」という言葉が出ていましたね。
美川さん
そうですね。私の波乱万丈の人生だから…。うちは、育ての母と産みの母が姉妹同士なんです。評判の美人姉妹で、おしゃれな人だった。産みの母はね、大手芸能プロダクションから女優としてスカウトされたくらいだったんですよ。
編集部
ぜひお母様のお写真をブログで公開してください…!
美川さん
ふふ。信州の諏訪から東京に向かう電車の中で知り合った男性が私の父なんです。そこからお付き合いがはじまったんだけど、それが“運の尽き”なの。
編集部
運の尽き… どういうことですか!?
美川さん
妻子持ちだったのよ。知らないで騙されたんですよ、母は。
編集部
えーっ
美川さん
父は自分で事業をやっていて、お金があったから、母のために部屋を借りてくれて。毎日、部屋に来るんだけど、泊まらないで帰るんだって。だから母も、おかしいな?と思ってはいたみたいだけど。
編集部
それは怪しいですね。
美川さん
しばらくして母は私を身ごもって。それを父に伝えたら、うれしい顔をしなかったんですって。
編集部
そんな…
美川さん
そうしたら後日、父から「これを飲むと元気な赤ちゃんが生まれるから」って渡されたものがあったんですって。
編集部
??
美川さん
粉薬よ。
編集部
えぇぇぇ…
美川さん
でも、母はその時なんとなくピンときて、「今は飲みたくないから後でゆっくり飲むわ。大丈夫よ、心配しないで」って言ったんですって。それで、父が帰った後、その薬を流しに捨てて。
編集部
怖すぎます…
美川さん
あとでわかったんだけど、流産するような劇薬のようなものだったらしいから、それを飲んでいたら、私は生まれていなかったかもしれない。
編集部
まるでドラマのようですね…。
美川さん
母のお腹はどんどん大きくなるものだから、ついに父は来なくなっちゃったの。逃げちゃったのよ。自分の女房が怖かったんじゃない?子どもができたら、認知もしなきゃいけないし。
でも、うちの母も負けてないから、父の会社に乗り込んでいったのよ。
編集部
そこで泣き寝入りするのではなく、乗り込んでいくとは!
美川さん
ふふ。強いのよ、母は。
会社で父親の名前を伝えて、お宅に伺いたいから住所を書いてくれないか?って聞いたみたい。それで、千葉にあった父の家に行ってみたら、それは立派な門構えの家で。
「まぁ、許せないわ」って思いながらベルを鳴らしたら、女の子が出てきたんですって。
編集部
もしや…
美川さん
ぱっと見たときに私の父に似ていたらしいのよ。なんだか嫌な予感がしていたら、奥さんが出できて「あなた誰?」って。
編集部
ドキドキしてきました。そこではじめて妻子持ちだったということに気づかれたんですね。
美川さん
そうね。でも、その奥さんも出来た方で、事情を話したら「もぅ、しょうがないわね。あなた、まだ若いのに。申し訳ないわ。人生を狂わせちゃって」って、玄関に正座をして頭下げられて。
「第二の人生もあるから、これで新しい人生を歩んでください」って、お金をもらって、別れたんだって。
編集部
お母様の気持ちを考えると胸が痛みます。
美川さん
いろいろ乗り越えてきたからね。だからね、母は私が壁にぶつかったり、ちょっと落ち込んだりしていると「あんた大丈夫よ、しぶといから。この世に生まれなかった子かもしれないんだから」って。子どもの頃からそう言われてきたのよ。
だからね、私も強いのよ~(笑)。
編集部
お母様も美川さんも、決して悲観的にはならなかったんですね。
美川さん
そうよ。そんな風に言われたら、横道にそれる場合もあるけど、私は逆に「はぁ、よかった。生まれてきて」って思ったの。
挫折したり、辛いことがあったりしても、グジグジと落ち込んでいたら、そのまま終わっちゃう。だから、それバネにして、「あの人は今」にならないようにがんばろうってね。その強さは、母が植えつけたものだと思う。
ブログに綴られた言葉
編集部
美川さんがブログに書かれていた「生きるってシンプルなのよ。自分を大事にすることが生きることよ」という言葉がとても印象的でした。
美川さん
そうね、つい周りの目が気になってしまうことってあるじゃない。
でも、芸能人だからとか、頭であれこれ考えないで、食べたいものを食べて、着たい服を着て、自分らしくシンプルに生きようと思うの。だから今、すごくラクよぉ~。ふふ。
編集部
素敵です。昔から、そうしてきたのでしょうか?
美川さん
わりと昔からそうでしたね。振り返ると、やっぱりスランプや挫折してどん底に落ちたとき、そこから這い上がることしか考えていませんでしたから。
編集部
どん底…ですか。
美川さん
人間落ちたら早いし、再び上がることって大変なんですよ。でも、落ちるところまで落ちたら、あとはもう這い上がるしかじゃない。
そのときに、「自分を大事にすることが生きること」だと思ったのよ。私の経験から生まれた言葉なんです。
編集部
だから美川さんの言葉には重みがあって、心にスッと入ってくるんですね。
美川さん
それにね、緊張するときには、大きく息をして、ふーっとはくと、緊張感が解けて肩の力が抜けるのよ。
編集部
えっ、美川さんでも緊張することがあるんですか?
美川さん
あるんですよ。もうね、昔より今の方が緊張するのよ。デビューからもう56年になるんですけど。緊張感があるというのは、いいこと。「美川も初々しくていいわね」って自分に言い聞かせてる。ふっふっふ。
結婚や子どもについて考えた過去
編集部
美川さんは、いつもポジティブで、ブログを読んでいると励まされます。Amebaはママも多く、「家事や育児に疲れたときに読むと元気になれる」という声も多いんですよ。
美川さん
あら。うれしいわ。ストレスがたまると思うのよ、子育てって。子どもってかわいいだけじゃないし、エネルギーも半端じゃないから。努力しているお母さんたちが世の中にいっぱいいるのよね。
本当はね、私も結婚を考えたり、子どもが欲しいなと思ったこともあったのよ。お付き合いしてる人もいたし。
編集部
!!!
美川さん
でも、このキャラクターじゃない?「結婚したら美川憲一じゃなくなる」って思って。もし結婚して、お父さんになっていたら、今の私ないと思うの。だから、結婚しない人生を選んだことは、全然後悔していないのよ。
編集部
そんな風に思ったことがあったんですね…。
美川さん
でもね、子どもは欲しいなと思って人工授精について調べたこともあったの。
編集部
驚きの発言が次々と…
美川さん
だけど、私のエゴを貫き通して子どもをつくったとしても、不幸にしてしまう。お父さんだか、お母さんだかわからないような親になっちゃうから、もしいじめられたりしたら、子どもがかわいそうだなって。
美川さん
結果的には結婚もしていないし、子どももいないけど、たくさんの出会いもあって、いまこうしてインスタグラムやブログをはじめて、「ブログたのしいですよ」「いつも見てますよ」なんて言われるとうれしいし、励まされますよ。
だから、飽きられないよう頑張らなきゃね。
「しぶとく生きる」は、まさに美川さんの人生そのものでした。浮き沈みのある「波乱万丈」な人生をたくましく、そしてポジティブに歩んできたことを知ると、ブログに綴られている言葉がより一層、心に響きます。
取材中、美川さんのゴールドに輝くネイルの話になると、「あら。これ美川が自分でやったのよ。ネイリストにもなれるんだから」とおっしゃっていて驚きました。まるでプロのようなクオリティのジェルネイルでした。そんなやり取りからも、美川さんの人柄や芸能界で活躍して56年経ってもなお、様々なことにチャレンジする努力家な一面が垣間見えました。
インタビューにうかがった編集部3名が「なんて素敵な方なんだ」とさらに美川さんのファンになったことは言うまでもありません。
美川さん、いい匂いがしたなぁ…。
〈取材・文=編集部/撮影=長谷英史〉
美川憲一クリスマスディナーショー
場所:ザ・プリンス パークタワー東京
日時:2020年12月23日(水)
受付:17:00〜
ディナー:18:00〜(コンベンションホール)
ショー:20:00〜(ボールルーム)
料金:1名様 ¥42,000(税込み)
申込電話番号:03-3741-9510(美川憲一ファンクラブ事務局)